ポートアイランドII期

市民セミナー「京コンピュータって、なぁ~に?」

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7/9日(土)、神戸市と財団法人計算科学振興財団が主催した市民セミナー「京コンピュータって、なぁ~に?」に参加してきました。先日、紆余曲折の末、スパコン世界ランキングで見事に1位に輝いた「京」。来年の本格稼動を前に市民向けに次世代スパコンで一体何ができるようになるのかを三人のパネリストを招いて講演を行い、最後には実際に施設の見学ができるという約4時間のプログラムでした。

まずは計算科学研究機構の施設の東にあるニチイ学館ポートアイランドセンターの2階大会議室内でセミナーが行われました。

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300人の定員に対して、参加者はおよそ200人程度だったかと思います。それでも老若男女、カップルや子連れファミリーまでの幅広い層からの参加で、市民の関心の高さが伺えました。

神戸市長の挨拶の後、以下三人のパネリストによる興味深い講演と質疑応答が行われました。


独立行政法人理化学研究所 計算科学研究機構 機構長 平尾氏

「スパコンとは?「京(けい)」とは?」

東京大学大学院 情報学環 総合防災情報研究センター 教授 古村氏

「スパコンで挑む、地震と津波の災害軽減」

東京工業大学大学院 情報理工学研究科 情報工学専攻 教授 秋山氏

「「京(けい)」がひらく生命情報解析の扉」

簡単にスパコンで何ができるのかと言えば、シミュレーションに限ります。実際に起こっていないことを予め分かっている情報や要素を元にあらゆる可能性を計算して仮想実現させるのです。しかしそういった計算は無数の法則や想定を考慮しなければならず、その計算数は膨大な数に上ります。その膨大な計算をいかに速く正確に処理できるかによって、プロジェクトの正確性と実現速度が大幅に変わってきます。

講演内で防災研究におけるスパコン利用を提唱した古村氏がとても分かりやすい例を挙げておられました。

東日本大震災のように海底で大地震が起こった際、起きた津波を海底センサーがキャッチしてその波形や大きさを本土で捉え、そこから津波が実際にどこへどんな形で到達するのかをスパコンで瞬時にシミュレーションし、そしてその結果に基づいて現地に情報を伝えて警報に反映させる。この一連の流れを津波が到達する前に実現させるには、スパコンの処理速度と正確性に頼る所が大きいのです。「2位では駄目なんです!」この説明の後の同氏のこの言葉には説得力がありました。

神戸は震災を経験し、東日本大震災が起こり、市民の防災意識は高まっています。実際に起こっていない地震を仮想実現させて、どんな被害が起こり得るかを正確に予測して防災に活かす。まさにスパコンがその性能の本領を発揮できる打ってつけの課題です。この他、京のあるポーアイII期エリアは日本最大の医療産業集積化が進んでいます。スパコンは創薬等の医療研究にも大きな力を発揮します。計算処理が速く正確であれば、薬の開発期間も短縮されて費用も圧縮され、早く安く新たな薬が提供できるようになります。

講演はスパコンの利用において神戸が現状、最も深く関わり合いを持つであろう「防災」と「医療」という二つのテーマに主眼が置かれて終了しました。

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そしていよいよお待ちかねの施設見学!ニチイ学館からは徒歩で数分です。時間差で二つのグループに分かれての見学となりました。これまで外から眺めるだけだった施設内部へ入れるという事で期待が膨らみます。

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施設の前にある市民広場に設置されているオブジェ。そろばんの珠をモチーフにしています。17個の珠が垂直に並びます。それぞれの珠には桁数が彫られています。京の桁は10の16乗です。つまり一番上が京の位となるわけです。

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東側のエントランスから中へ入ると、ガラスに覆われた開放感の高い吹き抜け空間が広がっていました。

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アトリウム正面の壁面には「京」の文字がドーンっと飾られていました。これは竹田双雲氏によって書かれた次世代スパコン「京」のロゴです。ちなみに英語表記にはローマ字でKeiではなく「K Computer」となっています。京を海外の人に正しく発音させるには最も適した方法ですし、粋な計らいかと思います。

「京」の命名は公募によって決まりました。そもそもなぜ京が選ばれたのでしょうか。それはこのスパコンの計算処理速度に由来します。目標とされる性能は10ペタフロップス。聞きなれない単位ですが、1秒間に何回の浮動小数点数演算(実数計算)ができるかを示し、京はその名の通り、1秒に1京回の計算ができるということです。

1京回の計算と言ってもピンと来ません。講演では分かりやすく「5万人が1秒に1回の計算をすると、6400年掛かる計算数」と表現していました。京はそれを1秒でやってしまうのです。

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フロアには施設の精巧な模型が展示されていました。この施設は主に4つの建物で構成されています。研究棟は北側から西側に渡ったL字で、テトリスのように中央の計算機棟を覆うように配置されています。

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このモデル、ボタンを押すと手前の研究棟エントランス部分が可動して下に沈み、施設の断面構造を見ることが出来る仕組みになっています。

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地下1階、地上3階の4つのフロアに分かれている施設内。一番右が研究棟で中央が計算機棟です。最上階の3階が京の整備中である計算機室。2階と地下階は計算機室で発生する膨大な熱を冷却するための空調機械室に宛がわれています。残念ながら、今回は1階の展示フロア内のみが見学可ということで、京を実際に見ることは叶いませんでした。

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膨大に発生する熱量を制御・処理するのは敷地の南側にある熱源機械棟です。京は空冷だけでなく水冷も行うハイブリッド方式の冷却システムを備えています。機械棟内には冷凍機が設置されています。

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展示フロア内の一部はガラス張りで1階の計算機室を見ることが出来ます。また各種の展示品やパネルによって設備の概要が説明されています。

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今回、唯一見ることのできた実際の設備。1階に設置されているグローバルファイルシステム。3階の計算機室で計算されたデータを蓄積する保存システムで、ようは巨大なハードディスクです。京とは光ファイバーネットワークで接続されています。容量は約30ペタバイト。全然、ピンと来ない単位ですね。例えるならブルーレイディスク60万枚分だそうです。しかし1-3階をネットワーク接続で大量のデータが行き来していたのでは、時間が掛かってしまうので、3階にはローカルのデータ保存システムを備えています。つまりは3階が本体HD,1階がより大容量の外付HDですね。

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こちらが実際のシステムボード。4つのスカラ型CPU(富士通の開発した世界最高性能CPU:SPARC64 VIIIfx・128ギガフロップス)とICC、そして2GBのメモリが32個。張り巡らされている配管は水冷パイプです。このボードが1ラックに24枚入っており、そのラックが3階計算室に800台以上設置されるのです。このボード1枚で幾らするんでしょうね。

800台揃うと、CPU数は8万、メモリは1ペタバイトを越えるそうです。

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こちらがアトリウム内に展示されているラックです。1トンの重さがあるそうです。上下に12枚ずつのシステムボードが入っています。電源ユニットも9個入っています。

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研究棟へのエントランスゲート。自動改札ですね。

展示フロアには他にスパコンの歴史やスパコンのもたらしてきた功績、今後の研究等のパネルが展示されています。

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約1時間の見学を終えて外に出た時にはすでに6時を回っていました。こちらは計算科学研究機構に隣接して先月末に完成した神戸大学統合研究拠点。京との連携を軸に各学部の研究者が集まり、新エネルギーや新薬開発、宇宙開発など八つのプロジェクトに取り組むとしています。

京の活用によって躍進するのは生命科学・医療分野や、気象・地殻変動分野だけではありません。新たな物質やエネルギーの創成、次世代ものづくりの開発、宇宙の起源研究等、幅広い分野で成果を上げられることが期待されてます。京の積極的な民間活用を促す為、研究結果を公表すれば施設使用料をゼロにするという方針を採るようです。

来年の京本格稼動時には米国のスパコンに巻き返されてしまう可能性が高いようですが、この分野は日進月歩ですから順位は二の次だと思います。どんなに優れた性能を持つハードがあっても結局それを使うのは人間です。使いこなして結果が出せなければ1000億円の血税投資も意味が無いものになってしまいます。

京の稼動を機に医療産業拠点、防災拠点、革新的な製品開発の拠点、学術研究拠点といった役割をポーアイ、そして神戸が日本にそして世界に発信できるよう積極的な活用策を産官学を挙げての協力体制を敷き、知・人・物が集まり、ひいては日本経済を牽引していく原動力の一つになるよう期待したいと思います。



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POSTED COMMENT

  1. 淀屋 より:

    事業仕分けまでは私もマスコミ報道を鵜呑みにして単純に日本はスパコン世界一と喜んでいました。
    しかし、ネットの専門家の意見は厳しいもので、前回世界一になった後も日本制のスパコンは増えず、メーカー別では米社製が、それもIBMとHPが圧倒的で二社でシェア76%あり、国別TOP500では米が半数以上で二位中国が62、日本は5位26で、中国の三分の一弱です。かつては米の半分の台数がいまや無残です。しかも大半が東京です。
    ※日本ではNECと日立はほぼ撤退で富士通のみであるが、シェア1.4%である。携帯の惨状と同じである。
    京は素晴らしいが、戦艦大和の可能性もあり、同じく当時世界一といわれた兵庫県佐用の大型放射光の二の舞なのかと心配しています。
    京の費用をかけるなら、台数は東工大でベスト10内のスパコンが18億、長崎大にいたっては3000万でベスト100内を完成させているので、少なくとも100台以上保有する世界二位のスパコン大国になっていた。
    理研や政府は世界一に対して何の説明もなく、マスコミも日経が今後の利用について意見を出しているが、おおむね大賛辞だけである。大本営発表の戦争時に戻っている。
    私は全国から高額の費用の京を使いに来るより、全国各地に性能は低いスパコンを配置する方がはるかに良いと思うが。
    京が戦艦大和にならないことだけを祈っています。
    誘致した神戸としては周辺の開発に弾みがつき、成功ですが。

  2. ko-he より:

    アポロの頃のNASAのコンピュータは現代の計算機並と言われる様に、「京」程の物でも、二十年後、五十年後にはポケットに収まる位の物になっているのでしょうか‥。まぁ、なんにしろ、僕らの地元に世界一が有るのはやはり自慢ですね。

  3. ビバ・ポートピア より:

    はじめまして。
    かなり前からここを拝見し楽しませていただいておりますが、コメントさせていただくのは初めてであります。

    ついコメントしてしまったのは、先日行われていたこのセミナーに私も参加していたからです。
    科学の第一線で活躍される先生方の話はどれも興味深く、あっという間の2時間でした。マスコミやネットを介しての分かったような話ではなく、生で聞く一流の科学者達の話には「熱」を感じることができました。

    なぜ、スパコンには圧倒的なスピードが求められるのか・・・。
    「2位では駄目なだけではなく、ただの1位でも駄目なんです。もっともっとスピードが必要なんです。」という地震学者の古村先生の話には「なるほど」と思わせるものがありました。
    現在地震の予知ということはできないのですが、発生した地震の規模から、津波などの被害の想定は予想することはできます。しかし、今回の東日本大震災のような大規模な地震の場合、今のスパコンではフルに頑張っても2時間かかる、と。京なら数分でできる。これを1分、2分でシミレーションすることが可能になれば、地震が発生してすぐに避難すべきエリアそして避難先を示し、少しでも被害を抑えることができる、と。

    コンピュータというものがこの世に生まれてまだ数十年の歴史しかありません。まだまだその進化と可能性に「わくわく」できる時代に生きているということに幸せを感じつつ、京コンピュータ、それが核となって神戸に様々な「知」が集積し、ますます面白い街になっていく過程も楽しみたいと思っております。

    余談ですが、セミナーで花鳥園の入場券が安くなるクーポンももらえたので、近いうちに遊びに行こうと考えております。(笑)

    初めてのコメントにして、なんだか長々としたものになってしまいました。スンマセン。
    これからも神戸のレポートを楽しみにさせていただきます。

  4. しん@こべるん より:

    淀屋さん

    京には京しかできないことがあるはずですので、特化した使い方ができれば良いと思います。国家プロジェクトとして今後の拡張等も含めて整備されたのですから、それに値する研究成果と実績に活かす為にも、産官学による連携で活用していくことが何よりも大切だと思います。

    ko-heさん

    コンピュータ分野の進歩は留まる所を知りませんよね。完全に我々の生活スタイルを変えてしまう程の進歩が目に見えてこれほど分かる分野もそうないかもしれません。

  5. しん@こべるん より:

    ビバ・ポートピアさん

    ありがとうございます。興味深いセミナーでしたよね。おそらく本格稼動前にもまた開催されるのではないかと思っています。その際こそは京を拝みたいものですね。

    花鳥園の割引券、コメントを拝見して気付きました!これはかなり割引率の良い券ですね。ぜひとも私もこの券を使って行こうと思います。なんだかんだ言ってまだ結局一度も行けてないんですよね。園内のバイキングレストランも人気があるようです。

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