京都

地域探訪: 京都・新風館 レトロな京都電電ビル西館を含めた新丘・和モダンの見事な融合 中庭の美しい大人の上質な複合商業施設へコンバージョン



烏丸通りに鎮座する新風館。初の京都取材においてはこの施設を取り上げる事が最重要ミッションの一つとして考えており、ずっと訪れてみたい場所でした。まずはこの施設の概要についてご説明します。

レトロな風合いを持つこの建物は、1926年に竣工、1931年に増築された京都中央電話局であり、後にNTT京都電電ビル西館となった建物で、京都市登録有形文化財に指定されています。

NTT都市開発が建物をリノベーションし、商業施設・初代「新風館」として2001年に生まれ変わらせました。

15年間の営業の末、2016年に一旦、施設を閉館。その後、4年間という長期に渡った閉鎖期間と再改築工事を施し、2020年6月11日に新しい京都のランドマークとして、新生「新風館」が再開業を果たしました。

烏丸通り側から見ると、NTT京都電電ビル西館の保存棟がファサードのメインになっており、施設の全容が捉えにくいのですが、敷地面積は6,384平方メートルもあり、施設の延床面積は25,537平方メートルに及びます。

保存されたNTT京都電電ビル西館の建物の背後に新築棟を新たに建設し、商業施設、シネマ、ホテルから構成される複合商業施設として大規模リニューアルを行った新風館。京都の近代建築と現代建築を見事に融合させ、施設内と街からの動線の配慮による回遊性向上と賑わいを生み、地元民や観光客が快適に過ごせる空間を創出した施設です。

それぞれの特徴を活かした機能性とデザイン性の高いエントランス



建物内には合計4ヶ所のエントランスが設けられており、街との融合に重きを置いた設計となっています。



NTT京都電電ビル西館の北側・姉小路通沿いに設けられたアーチ型のエントランス。



レトロなホールを抜けて中庭へと誘うアプローチ。吊り下げ照明もヴィンテージ感が漂い、京都の歴史は和だけではない事を主張しています。

レトロなホールアプローチ内に設けられた館内フロアマップとテナント案内です。

烏丸通り側には木組みの上に鉄フレームと透過性のあるポリカーボネートを組み合わせたキャノピーを被せたエントランスがあります。



中央に一直線のコリドー「パッサージュ」が奥に続く東洞院通側のエントランス。



軒下に木材の木組みを多用して和の要素を採り入れながら、ガラスと鉄のフレームを組み合わせ、屋上庭園による緑化を図る等、様々な要素を上手に処理しています。

 



エントランスの横にはオープンテラスのあるボトルバー・カフェの「DIG THE LINE BOTTLE & BAR」が営業。

上質な商業空間「パッサージュ」



京都初出店のテナントも含め飲食・物販の全20店舗が集結する1階の商業フロア。



格子状に組まれた木材の梁の上に間接照明を設置し、天井を白にして反射させて、柔らかな光で商業空間「パッサージュ」を包んでいます。



上質な空間の中にセレクトショップやレストランを配置。大人の隠れ家的な雰囲気を持つ商業空間です。



商業空間を抜けた先に到達する中庭空間。自然光がたっぷりと降り注ぎます。

緑豊かな中庭空間「コートヤード」はボイドとしても機能



豊富な緑に溢れたコートヤード。ロの字型に建物に囲まれた癒しと憩いの空間及び施設中央の回遊動線機能も発揮したボイド空間でもあります。



西日本初となる「BEAMS JAPAN」。日本をキーワードに「食」「銘品」「ファッション」「コラボレーション」「カルチャー」「アート」「クラフト」の構成で、日本の様々な魅力を国内外に発信する人気ブランドですが、京都の為にあるようなこの店舗も新風館を出店場所に選びました。



モダンな和旅館の要素が盛り込まれています。不思議な形のタワー型オブジェは、「Ether (Octagon)」。滴(しずく)が地面に落ちて広がる様子を段階的に3Dモデル化し、上下反転させてランダムに積み重ねた彫刻で、生命力の永遠性を象徴すると共に、全体が多面体で構成され、自然光の変化に合わせて面から面へ、光が移り変わる様子を表現しています。



最も高い建物がホテル棟。米国シアトル発祥でニューヨークに拠点を置くエースホテルが日本国内発進出。客室は213室で、ギャラリー、ジム、コーヒーショップ、ルーフトップバーの他、3つのレストランも設置しています。バンケットルームや3つのミーティングルームも備えた総合ホテルです。



マテリアル、自然、空間の融合と構成が見事なのは、隈研吾氏がデザイン監修を担当したと聞けば納得です。



4つ目のエントランスは地下鉄烏丸御池駅へとも連絡する地下2階。地下1階には大手映画チェーンが扱わない国内外のアートシネマを上映するミニシアターの運営を行うアップリンク京都が4スクリーンを運営しています。



京都には京都駅ビルのようなマッシブな建築は寧ろ少なく、都心部の建物の多くは小中規模に留まりますが、その分、ディテールの拘りを強く感じる事が出来ます。



現代の京都らしさとは和とモダンの融合がひとつスタンダードになっており、ある意味、ストレートで分かりやすく、日本人にも訪日客にも素直に受け入れ、共感を得られやすいかと思います。



神戸でも、大丸神戸店が隣接する近代建築である旧居留地38番館を同様に見事にリニューアルさせた商業空間に仕立て上げていますが、こうした上質な商業施設をもっと増やすべきかと思います。

上質な都心複合商業施設のお手本に



この新風館を手本とした複合商業施設を基本として、元町・鯉川筋のGSパーク神戸を再開発する際に是非とも参考にして欲しいと思います。旧居留地、南京町、乙仲通り、メリケンパークとの回遊性を踏まえ、外資系ホテルと周辺エリアへの動線として機能する上質な商業空間を組み合わせた複合開発が望ましいです。勿論、中庭の造成は必須条件で。



新生新風館は期待通りもしくは期待以上の複合商業施設でした。隈研吾氏が監修を予定していた兵庫県庁再整備が無くなってしまったのが悔やまれます。

 

新風館

所在地 京都市中京区烏丸通姉小路下ル場之町586-2
交通 京都市営地下鉄「烏丸御池」駅直結
敷地面積: 6,384㎡
主要用途: ホテル、店舗、映画館
店舗数: 20店舗
構造: 鉄骨造・一部鉄筋コンクリート造
規模: 地下2階~地上7階
建物高さ: 約31m
延床面積: 25,611㎡
開業: 2020年4月16日
事業主: NTT都市開発株式会社
設計・監理: 株式会社NTTファシリティーズ
建築デザイン監修: 隈研吾建築都市設計事務所
施工: 株式会社大林組

https://shinpuhkan.jp/

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POSTED COMMENT

  1. こまったちゃん より:

    雑な発言になりますが、新風館の元となった郵便局の建物は、積極的に残すほど力のある建築ではなかったと考えています。それでもリノベであれだけの施設ができる点は、良く意識すべきかと。

    言及されているGSパークには、銀泉ビル(旧住友銀行支店)がありましたが、こちらの方が魅力のある建物だったと思っています。解体されると聞いた時、新風館みたいな、あるいはそれ以上のリノベができたはずなのに、、と残念に思っていました。

    同じような話は今でもあって、新港に残っている巨大倉庫群、これはこれで老朽化していますが、クレーンなども含め、港の雰囲気を残す貴重な資源にできると考えています。

    倉庫リノベも事例がありますし、ロケなどでも使えるので、中をくりぬいてホール的な集客施設にできたら、、と考えています。新しく作っちゃいましたが、水族館でもアリーナでも良かったと思っています。

    まだ残っているものもありますし、既存の整備方針とぶつからない・相乗効果のある形で何棟か残し、エリアの雰囲気を残して観光資源化してほしい気がしています。

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