福岡市一の繫華街・天神エリアの明治通りにて2021年9月に完成した大型オフィスビルが「天神ビジネスセンター」です。
福岡市が「2024年までの10年間で30棟の民間ビルの建替えを誘導し、新たな空間と雇用を創出する」として掲げた施策「天神ビッグバン」の認定プロジェクト第一号を獲得した計画で、天神セントラルプレイス、西日本ビルなどの建物のあった敷地を一体的に集約。福岡の地場デベロッパーの福岡地所が地上19階 高さ89mの大型オフィスビルを建設しました。
4年前の取材時は基礎工事が終わってようやく地上躯体の鉄骨工事が始まろうとしている段階でした。
ガラスに包まれた外装は、建物のコーナー部を中心に、非常に複雑な形状をしており、建築デザインを手掛けた建築家・重松象平氏の「業」が光るファサードです。
「切り崩し」と表現されるコーナーのデザインは独特の形状をしており、まるで等高線のように、ガラスの層が幾重にも重なっており、これが低層部から中層部に渡って立ち上がっています。
周囲には建物も多く、なかなか建物全体像を捉えにくい環境でしたが、建物上部も同様の形状が与えられ、まるでこれらの部分だけ、毟り取られたような不思議なデザインです。施工を担当したのは前田建設工業。
天神エリアでは、ビッグバンを活用した複数のプロジェクトが進行中ですが、いずれもデザイン性に秀でているようです。
と言うのも、ビッグバンの認定要件の一つに「低層部・公開空地を含めたデザイン性の高いビル」が課されている為、デベロッパーは必然的にデザインにも配慮した建物を設計せざるを得ないのです。
福岡市肝入りのプロジェクト第一号という事で、その建物への入居企業やテナントが埋まるかどうかの動向等も含めて、注目を集めました。コロナ禍での完成という事もあり、今後、続くビッグバンのプロジェクトの行方を占う上でも、この第一号の天神ビジネスセンターのテナント誘致状況は重要視されたからです。
結果として、長崎県佐世保市に本社を構えるジャパネットホールディングスが、東京・麻布にあった人事・労務・資産管理等の機能の一部を移転させる他、ブランディング・広告・デザインを担当するグループ会社も含めた福岡オフィスを、このビルに開設しました。
またNECが同社九州のグループ7社の主要拠点を移転・統合し、このビルに入居。
大手企業の入居が決まった事で、ビッグバン第一号ビルの格好は付いた形でした。
メインエントランスはこの大きな建物には似合わないこじんまりとした感があります。切り崩しのデザインによる制約かと思いますが、内部には開放的なアトリウムがあります。
ガラスが際立つ最新ビルのファサード。地下1階~地上2階は店舗の入る商業ゾーンとなっています。地下階は「天神イチナカ」と命名された飲食店街です。
1階にはアウトドアブランドのパタゴニアやALETTA by サンエーというイタリアのセレクトショップが出店しています。
大きな街区が開発されました。福岡地所という特異稀な力強い地場デベロッパーを持つ福岡は恵まれた環境が整っています。
このビルは現在はまだ満床ではなく、幾つかは空きフロアがあるようです。
福岡でもコロナ前には非常に旺盛なオフィス需要がありました。京都程ではありませんが、福岡の都心部も福岡空港による高さ規制が敷かれており、60mを越える高層ビルの建設は不可能でした。ビッグバンはオフィスやホテルの不足を解消し、老朽化するビルの更新によって、福岡の都市競争力の引き上げる施策として導入された規制緩和策です。
ビッグバンの威力は想像以上で、明治通りを中心にほぼ全域のビルが建て替えの方向に向かっているかのようです。それら全ての床を消費できるオフィス需要があるのかは定かではありませんが、現在の需要で測るのではなく、その需要を生み出していく事を前提としているのではないかと思います。
天神ビジネスセンターの南側です。窓の殆ど見当たらない同ビルの裏側が見えています。既存建物の地中障害物の解体撤去が行われています。
ここにはかつてジュンク堂丸善の書店等が営業する天神MMTビルや福岡市役所北別館が立っていました。
福岡市はこの北別館跡地を新たなオフィスビル開発に充てる為、公募プロポーザルを実施し、天神ビジネスセンターを建設した福岡地所が事業者として選定されました。
同社は天神ビジネスセンターとデザインを共通化した地上19階 地下1階のオフィス主体の複合ビルを計画しました。
しかし隣地の天神MMTビル及び第2明星ビル跡地も福岡地所が取得した為、土地の一体活用が可能になった事から計画案を変更し、合計4,085.08平方メートルの敷地に地上18階・地下2階建ての天神ビジネスセンターに類似したデザインのビルを建設します。
内部には地下2階から地上5階に渡る7層吹き抜け空間「アクセラリウム」が生まれる事になる予定です。延床面積は63,206平方メートルで、天神ビジネスセンターを上回る規模の開発となります。
天神ビジネスセンターの二期計画のような位置付けのプロジェクトになりそうです。
この独創的な外観を持つ高さ89mの高層オフィスビル。南北のツインビル化によって、更に天神地区での存在感を高める事になりそうです。しかし天神ビッグバンの威力は福岡市が想定していた以上の効果をもたらしており、これまで抑制されてきた投資意欲がまさに爆発したと言えそうです。神戸市も景観規制によって高さ抑えるのではなく、民間事業者から意欲を引き出す緩和措置をもっと大々的に打ち出すべきです。
しかし福岡地所という頼もしい存在を持つ福岡が羨ましいですね。
天神ビジネスセンター
所在地 福岡市中央区天神1丁目事業者 福岡地所株式会社
敷地面積 3,917.18㎡
建築面積 3,234.55㎡
延床面積 61,116.98㎡
階数 地上19階、塔屋2階、地下2階
用途 事務所、店舗、駐車場等
建物⾼さ 約89m
構造 S造 一部 RC造
耐震性能 免震構造
着工 2019年1月
竣工予定 2021年9月
設計者 基本設計:株式会社日本設計
実施設計・施工:前田建設工業株式会社
建築デザイン 重松象平/OMA
インテリアデザイン グエナエル・ニコラ/株式会社キュリオシティ
https://tenjinbc.jp/
こちらに投稿するべきか迷いましたが、福岡地所というデベロッパーが、キャナルシティを経て天神ビジネスセンターに至る過程が書かれた記事を紹介します。
前5回シリーズで、産経新聞の記事です。
■平成の商業施設はこうして生まれた
キャナルシティ博多
①この場所はマンションじゃだめだ
https://www.sankei.com/article/20180704-CCGRCGN3ZNNFXN4YYFK252RTKU/?outputType=amp
②人はまっすぐに歩かない
https://www.sankei.com/article/20180711-RRQPNRKXKZKLBM2BEJ6KLVDWGA/?outputType=amp
③車売って夢のかけ橋作り
https://www.sankei.com/article/20180718-HZOLVYW4UZOWVLYDRL5M4HATKY/?outputType=amp
④時間と情熱をかけ作り上げよう
https://www.sankei.com/article/20180725-ODDULG7X3RNABFAHBC6WZ3UDZQ/?outputType=amp
⑤100年後も残る建物に
https://www.sankei.com/article/20180801-VFXAVQR42BK6DCYOZKG27YMH6A/