地域探訪: 札幌の商業地図事情

人口180万の札幌は北海道一の大都市で国内でも5番目の規模を誇ります。都心部は全国の地方政令市と同様にJRのターミナル駅とは離れたエリアに既存の中心商業地域が形成されており、それに対して利便性の高い駅前地区が対抗し、力を増しているという流れも同様です。ただ札幌の場合はこれまで中心商業地に対する駅前商業地の力は比較的大きいという点は他都市とは異なる興味深い点です。

既存中心商業地は大通公園の南側一帯で、大通の南側から歓楽街のすすきのまでを含む大きなエリアです。



主に大通周辺は百貨店やファッションビルが中心のショッピング街です。大通に面した地場百貨店である丸井今井札幌本店は経営母体が2005年に経営破綻しており、三越伊勢丹傘下に入りました。地域一番店の座を長年、維持してきましたが、大丸札幌店にその座を譲り渡して以降は縮小の方向に向かいました。この一番店の交代劇はそれまで保っていた大通と駅前のパワーバランスに狂いが生じ始めた事を物語っています。また舵を握る三越伊勢丹も地方・郊外店が足を引っ張り、経営不振に陥りました。この影響を受けて、他地方店や郊外店同様に札幌でもリストラを実施予定です。大通一帯に配置されている丸井今井の店舗と自社保有の建物を含めて再編を行い、建て替え等の再開発も検討中です。



丸井今井から目と鼻の先には札幌三越があります。開店は1932年と古く、店舗前は札幌最高路線価を長く維持してきた由緒ある百貨店です。直近の売上高は263億円。



しかし丸井今井の経営統合により、札幌丸井三越として包括的な運用に至り、重複店舗として認識されました。長らく札幌を代表してきた百貨店に再編の嵐が吹き荒れようとしています。



札幌三越の前には札幌パルコが鎮座します。札幌パルコの開店も古く1975年開業です。この一番街で札幌のファッションシーンを牽引してきました。



南側の新館については2014年より建て替えに着手。札幌信用金庫と共同開発で同行の本店ビルと札幌ゼロゲートを2016年に開業させました。



すすきのまで駅前通を下ると、旧ロビンソン百貨店札幌店を活用した商業施設ススキノラフィラが構えています。



すすきのは北日本一の大繁華街・歓楽街です。インバウンド需要の高い札幌において利便性の高いすすきのではホテルの建設ラッシュも続いています。



大通と駅前地区の均衡に大きなクサビを打ち込んだのはやはりJR札幌駅ビルの再開発です。オフィスとホテルから成るJRタワーを中軸に、専門店街のステラプレイス、エスタ、大丸札幌店から構成される複合駅ビルは2003年に開業。この巨大施設の誕生でパワーバランスに大きな変化が訪れました。



大丸札幌店はJフロントグループの中で最も新しい百貨店です。開店にあたっては旗艦店の神戸店を模範として、店舗のデザインや設計が行われたようです。売上高は開業以来、上昇を続け、今や620億円を突破。2位の丸井今井の370億円を大幅に上回る地域一番店に成長しました。



札幌駅周辺はかつて百貨店集積地として大通と肩を比べていました。地方都市としては珍しく東急百貨店が進出しています。国内では首都圏以外で唯一の直営店です。出店は古く1973年開業です。



駅ビルに直結する商業ビルエスタもかつては札幌そごうでした。そごうの破綻と共に閉店し、現在は専門店ビルになっています。



また駅前には大きな更地が広がっていますが、ここには札幌西武が営業していました。2009年に閉店し、ヨドバシカメラがこの一等地を取得しています。

一時的には札幌の都心部にはそごう/大丸、東急、西武、丸井今井、三越、ロビンソンの6百貨店が営業していた事になり、今となっては過剰な数でした。今後は大丸、東急、三越のみに絞られていくでしょう。ただ再開発の進み方次第では大型専門店やファッションビルが駅前地区に更に急増する可能性があり、老朽化の進む東急も売上を落とせば、撤退もあり得るかもしれません。



駅前地区と大通の間でも再開発ビルに新しい商業施設が次々と誕生しています。百貨店の存在は流通市場から益々、縮んでいくばかりです。ターミナル駅直結やその都市の駅前一等地の百貨店でなければ、今後の存続は難しいかもしれません。新幹線の開通が今後、更に駅前地区の求心力を強めると思われます。大通がこれに対抗するには、駅前とは異なる手法での再開発によって街の魅力を高める工夫が必要になるでしょう。