HAT神戸

Happy Active Town 「東部新都心・HAT神戸」を歩く ~地域探訪~

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先日、神戸製鋼の本社ビル建設予定地を取材した際に、HAT神戸を当ブログで扱うのは実は今回が初めてだったことに気付き、併せてHAT(主に灘浜エリア)を歩いて、この街の特徴と抱える問題点を探ってみようと思いました。

市民の中で「Happy Active Town」と言われてピーンっとくる人は少ないのではないかと思います。HAT神戸の正式名称です。この街がどういう場所なのかはブログを拝見して頂いているほとんどの方はお分かりでしょうが、簡単に概略のみ触れて置こうと思います。

-東部新都心 HAT神戸-

臨海部における大規模工場跡地の遊休化に伴い、市基本計画によって東部新都心として位置付けられ、震災後は復興計画のシンボルプロジェクトとして開発が進められてきた。

同地区は三宮の東約2kmに位置し、東西2km、南北1kmに渡る約74.7ヘクタールの広大な敷地を二つの居住地区、業務・研究地区、文化・教育地区、そして親水公園地区に分割し、一部の地区を除き、ほぼ全ての街区の開発が完了している。

事業面積: 約74.7ヘクタール (新都心域全体 120ヘクタール)
総事業費: 約560億円
計画人口: 居住人口約2万人、従業人口約4万人、利用人口約15万人

業務・研究地区
主要施設: 防災未来センター、国際健康開発(IHD)センタービル、JAIC兵庫センター、神戸防災合同庁舎、兵庫県赤十字血液センター、ブルメールHAT神戸、ヤマダ電機、ケーズHATメディカルモール、レクサスHAT神戸、神戸製鋼所本社屋(計画中)

文化・教育地区
主要施設: 兵庫県立美術館、兵庫県立災害医療センター日赤病院、こころのケア研究・研修センター、市立なぎさ小学校・中学校

居住地区
主要施設: UR都市機構HAT神戸灘の浜・脇の浜、神戸脇の浜合同宿舎、神戸海岸通ハーバーフラッツ、摩耶シーサイドプレイス

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他地方から訪れる友人や知人をこのエリアに案内すると、たいていの場合に感嘆の声を上げます。この街の整然性、道路や歩道の幅員の広さ、真っ直ぐ伸びるメインロードと海辺の開放感、奇抜でカラフルな建物群。既存市街の三宮の目と鼻の先にこうした都市景観が広がっていることに驚きを覚えるようです。

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業務・研究地区として位置付けられているエリアで最もこの地区に相応しい役割を担っているのがこの国際健康開発センター(IHDセンター)です。

国際健康開発センター 建物概要

規模:地上9階
敷地面積:10,000㎡
延床面積:24,700㎡
竣工:1998年4月

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設計は日本を代表する建築家巨匠・故丹下健三氏。同氏が世を去ったのが2009年ですから、晩年初期の作品ということになります。同氏の設計した建物としては神戸市内で最初で最後の建築物です。シンプル且つ機能的ではありますが、決して単調な箱ではなく、要所要所にアクセントが加えられた飽きの来ないデザインのオフィスビルです。

特に東面のファサードはあらゆる方向から角度を付けた直線が交錯し、建物本体の上部に板状の大屋根が絶妙な空間を空けて宙に浮いているようです。

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北面と南面はガラスカーテンウォールで覆われています。海と空、山と空を映し出す鏡のような印象を与えてくれます。この建物はそのデザインだけが特徴ではなく、その建物名称から推察されるように入居テナントもインパクトがあります。

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正面エントランス横にあるテナント掲示板です。まず目を引くのが9階の1フロアを占めている「WHO Center for Health Development」。国連施設であるWHO健康開発総合研究センターです。HAT神戸の活性化を担う中核施設として国際的な視点から社会や環境と人の健康を研究を行っています。そして8階には検体検査用機器や試薬大手のシスメックスが本社を構えています。連結売上高は1000億円を越え、従業員数3000名、血球計数装置で世界トップシェアを誇ります。元はポーアイに本社を置く音響機器開発のTOA社の医用機器販売部門としてスタートした企業で、近年急成長した神戸企業の誉れの一社です。6階には神鋼グループの一社であり、工業科学分野での分析・測定・問題ソリューション提案を行っているコベルコ科研本社が入居。他神鋼ケアライフ本社をはじめ各種企業や日本看護協会の神戸研修センター、財団法人兵庫県国際交流協会も入り、国際的な医療・健康研究関連機関が集積する建物です。

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IHDセンターを東端とする業務研究地区は整然と東西に四つの建物が高さを揃えて縦列しています。

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IHDセンターの西隣がJICA兵庫国際センターです。独行法人国際協力機構の支部で国際交流拠点として開発途上国への専門家の派遣、研修員受入れ等を行っています。

地上13階建ての建物には96室の居室を備え、外国人研修生の宿泊施設と研修センターを兼ねています。従って建物上層部はホテルのような外観をしています。アールを描いた白亜のファサードは清潔感と先進性を兼ね備えています。

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業務研究地区の西端2つの建物は震災復興とその記憶を留め、そしてその経験を今後の防災計画に役立てるための施設が建設されました。人と防災未来センターはI期棟とII期棟に分かれ、I期棟を防災未来館、II期棟をひと未来館という形で開業させました。防災未来館は阪神大震災関連資料の展示が主眼に置かれ、施設の目的がハッキリとしていましたが、ひと未来館の展示フロアは正直、何の為に開設したのか理解しかねる展示内容で、案の定、来館者数は低迷。一旦、閉館して両館共に防災をテーマとした施設に改装。現在は東館と西館という形で運営されています。

両施設とも、もちろん当時最新の制震構造を導入しています。

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西館は目を見張るようなガラスの箱。HAT神戸の近未来都市感を体現している建築物です。とてもシンボル性の高いデザインです。都心部に商業施設として欲しい外観ですね。

人と防災未来センター西館 施設概要

規模:地上7階 地下1階
建築面積:1,888.97m²
延床面積:8,573.49m²
構造:S造
最高高さ:44.30m
竣工:2002年4月

人と防災未来センター東館 施設概要

規模:地上7階 地下1階
建築面積:2,059.97m2
延床面積:10,197.08m2
構造:RC造
最高高さ:43.35m
竣工:2003年3月

両館とも単なるメモリアル的な展示施設としての機能だけでなく、防災研究施設との役割をしっかりと務めています。国連地域開発センター防災計画兵庫事務所、国連人道問題調整事務所、アジア防災センター、国際防災復興協力機構等の防災研究機関が数多く入居し、国際的な防災拠点として機能しています。

東日本大震災を機に、更にこの施設群の持つ役割の重要性が増しました。来年整備されるスパコン京とも連携して更に精度の高く実用的な防災計画、防災科学の研究に力を発揮して欲しいものです。

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西館の周囲は水が張られており、水面上にガラスの箱が浮いているようなデザインとなっています。

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東部新都心の文化拠点としての役割を背負っているのが兵庫県立美術館です。西日本最大級のこの美術館は建築自体が芸術です。設計はこれまた日本人建築家の巨匠・安藤忠雄氏。巨大なひさしを持った三棟で構成されています。海側に面しては大階段が親水広場へのアクセスとなり、外側への圧迫感を軽減し、周囲への開放感をもたらしています。

兵庫県立美術館 「芸術の館」施設概要

規模: 地下1階・地上4階
敷地面積: 19,000.00
建築面積: 12,807.71
延床面積: 27,461.41
最高高さ: 23.1.m
構造: SRC造
竣工: 2001年9月

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シンボルロードに面した北側はまた違った表情を見せます。同美術館は安藤氏と丹下氏の作品が隣り合っているというよく考えるとすごい状況です。

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海側は親水空間であるハーバーウォークとなっています。神戸には数多くの親水公園がありますが、親水性と景観を兼ね揃えているという点でこのハーバーウォークは有数の優れた親水公園だと思います。開放感もあり、東西に並ぶHAT神戸の建築物群から都心エリアのスカイラインまでが見渡せる美しい都市景観が非常にバランスよく連なっています。

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HAT灘の浜エリアの高層住宅街。デザイナーズマンションのように特徴的な外観を持ったUR賃貸の住宅群が連なります。シンボルタワーとなるツインタワーHAT神戸灘の浜1番館・2番館はカラフルな色調を共有しつつ、完全なシンメトリーのタワーではなく高さ、塔屋、住戸配置等に変化を付けています。

著名建築家によって設計された建物のみでなくエリア内のあらゆる建物が何らかの特徴性を持っており、街中が先進建築の見本市のような景観がHAT神戸の魅力です。

神戸は旧居留地に代表されるように景観条例をエリアによって厳しく設けており、それが功を奏した街の活性化を進めてきました。ここまで紹介してきたHAT神戸の建築物はその施設の持つ用途面でも景観面でも新都心の整備方針にあったものを中心としてきました。

しかし業務・研究地区は近年造成された神戸の他の開発エリアが土地の分譲に苦心しているように、当初の整備目的のみに用途を限定していたのでは、現実的に開発が進まずに街の活性化が抑制されてしまうというジレンマがあります。

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ヤマダ電機のHAT神戸進出はそんなジレンマ発覚のきっかけとなりました。街の活性化という観点から見れば、大型電気量販店の出店はその街にとって悪い事ではありません。しかし景観的な配慮もしくは規制を設けることはできなかったのでしょうか。

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ヤマダ電機の向かいに開業したのがブルメールHAT神戸。シネコンを中心とし、43店の専門店が集う屋内型ショッピングモールです。優れた外観を持つ建物とは言えませんが、周囲への景観配慮は施されているようです。市内では最もシネコンらしいシネコンと言って良い施設を備えており、それまでは地域のシネコン需要を独占していた六アイのMOVIX六甲を閉店に追い込んでしまった直接的な要因は同施設の誕生による事が大きいかと思います。地区への更なる集客力アップと、居住人口2万人を抱えるエリアに対して商業施設の貧弱な環境に対し、利便性の向上を図ったという点は評価できるかと思われます。

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ケーズメディカルモールは1-2階ケーズデンキが入居し、3-4階はクリニックやインドアテニススクールが入る複合商業施設です。まとまった土地と幹線道路へのアクセス、周辺人口、そして商業施設の集積が、K’sホールディングスにも魅力的に映ったのでしょう。ヤマダの目と鼻の先に進出しました。

しかしこの建物も周囲への配慮はあまり見られず、色調は赤、黄色といった原色を使っており、道路を挟んで斜め向かいに兵庫県立美術館があることは正直、残念です。

両大型量販店共にモノトーン系の色調にまとめる、塔屋看板は設置しない等、地区への融合を考慮して欲しかったです。京都駅前に進出したヨドバシカメラは「らしさ」を維持しつつもモダンクラシックなデザインと最小限に留めた看板類によって、街並みを乱さないように配慮しています。

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街の東西を貫く一直線のシンボルロード。ゆったりとして、街路樹も美しく気持ちの良い道路です。しかしエリアの立地がポーアイ、摩耶埠頭、六アイ等の物流拠点の通過点にある為、43号線の抜け道として大型トラックやトレーラーも頻繁に乗り入れ、交通量は多いです。

ファミリーや高齢者も多く居住している同地区でのこうした状況に市が大型車の乗入れ規制を行っていないことには疑問を覚えます。

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HAT神戸地区最大の業務施設となる予定だった神戸製鋼本社ビルは、規模を縮小しつつも街開きから10年以上を経てようやくプロジェクトが始動します。

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シーサイドにゆったりとした緑溢れる空間と国際的な業務研究施設や商業施設、芸術拠点とマンモス住宅群。神戸の新都心としては最も新しく最も都心部に近いこの地区ですが、長年のスパンで地区の将来性を考えた時、懸念されるのは住宅群の老朽化と住民の高齢化等のリスクの潜在性です。ポーアイI期地区がすでにその問題に直面しつつありますが、ポーアイ自体は新たなトランジションを模索し、II期エリアを初めとして今や最も大きな将来性と可能性を秘め、その成功の行方によってはI期地区の再開発を促すことに繋がっていくことになるかもしれません。

HAT地区は都心の目と鼻の先にも関わらず、心理的な距離感は大きいです。阪神線の春日野道駅、岩屋駅も近く、決してアクセスは悪くは無いのですが、エリア中心部に鉄道が乗入れていない点はこの街にとって大きなハンディではないかと思います。地下鉄海岸線が花時計前より延伸されて脇の浜、灘の浜の2駅を経て、JR灘駅とJR六甲道駅間に計画されている新駅(摩耶駅)にてJRと接続する等、交通アクセスの改善が今後のHAT神戸の更なる発展性の鍵となるような気がします。どちらにしろ神戸はこうした都心の分散化、拠点の拡散化を促進してきました。しかしすでに世の中の流れは選択と集中に切り替わりつつあります。今後は選択された拠点地区にのみ重点的な投資が行われ、そうでない地域はジリジリと衰退していくことになります。HATの業務研究地区にはポーアイII期との連携が可能な分野に特化した企業や機関が集まっており、地理的にも近いこともあって目指す方向性はポーアイとの相乗効果ではないでしょうか。

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最後におまけですが、HAT地区から眺める神神戸のトリプルタワー。ニョキニョキという表現がピッタリですね。



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  1. 人と防災未来センター

    前日に引き続き、阪神淡路大震災関係のレポートです。
    今回は、HAT神戸の「人と防災未来センター」を訪問してみました。


    立派な建物が二棟建っています。
    どっちが、人と防災未来センターかな?と、外にいた警備員さんに尋ねたところ、どっちもそうでした。
    左の青い建物が西館で、阪神淡路大震災に関する展示が中心です。
    茶色い方は東館で、こちらは東日本大震災やその他の自然災害に関する展示…

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